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はないくとせ
花幾年
折口 信夫
「旅 第二十一巻第四号」1947(昭和22)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,442 字 · 5 页
やれ捲き脚絆をつけて居ないことの、もんぺいの柄がだて過ぎることの、そんな立ち入った干渉をして居た。私は叱られはしなかったが、そんな小言を通りすがりに耳にして、腸の煮え返る気がした。
「冥加知らずめ」がなりつけてやりたい気をやっと圧えつけた程だった。誰が一体こんな事を言わすのだ。今のように事毎に責任者を想像して、何万人の怨みを背負わせる様にはなって居なかったが、あまり道知らずに、野方図になって行く世間がくちおしくてならなかった。世間知らぬ山の町の人たちだけではなかった。都も鄙もおしなべて、朝でも晩でも、何の権力もない人間が、善良な者の安穏な生活を、こじてまわる時代だった。
まあこう言う風に、花の木の下で、次もないことで、旅人たちは、やまいづかされたものである。今思えばあんなに、花が見たかったのは、久しく生きては居まい、息のあるうちに、一度でも完全に眺めたことのない山の花を、心ゆくまで見ておこうという心が動いて、そうなったに違いない。
その前からも殆毎年と言ってよいほど、その五、六年というもの、春毎に山へ這入ったものである。今年こそ、咲きそろった花を、せめて中・上の千本に亘って見たいものだ。