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はなび
花火
「文芸」1942(昭和17)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,233 字 · 29 页
生来、理論の不得意な勝治は、ただ、閉口するばかりである。けれども勝治は、杉浦透馬を拒否する事は、どうしても出来なかった。謂わば蛇に見込まれた蛙の形で、這いつくばったきりで身動きも何も出来ないのである。あまりいい図ではなかった。この事に就いては、三つの原因が考えられる。生活に於いて何不足なく、ゆたかに育った青年は、極貧の家に生れて何もかも自力で処理して立っている青年を、ほとんど本能的に畏怖しているものである。次に考えられるのは、杉浦透馬が酒も煙草もいっさい口にしないという点である。勝治は、酒、煙草は勿論の事、すでに童貞をさえ失っていた。放縦な生活をしている者は、かならずストイックな生活にあこがれている。そうして、ストイックな生活をしている人を、けむったく思いながらも、拒否できず、おっかなびっくり、やたらに自分を卑下してだらだら交際を続けているものである。三つには、杉浦透馬に見込まれたという自負である。見込まれて狼狽閉口していながらも、杉浦君のような高潔な闘士に、「鶴見君は有望だ」と言われると、内心まんざらでないところもあったのである。何がどう有望なのか、勝治には、わけがわからなかったのであるが、とにかく、今の勝治を、まじめにほめてくれる友人は、この杉浦透馬ひとりしか無いのである。