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はなび

花火

太宰 治

「文芸」1942(昭和17)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,233 字 · 29 页

青空文庫

」

「知りません。」勝治は、少ししょげる。

「君は、知っているんだ。言葉で言えないだけなんだ。」

「そうですね。」勝治は、ほっとする。

「そうだろう? 定理ってのは皆そんなものなんだ。」

「そうでしょうか。」お追従笑いなどをして、有原の美しい顔を、ほれぼれと見上げる。

勝治に圧倒的な命令を下して、仙之助氏の画を盗み出させたのも、こいつだ。本牧に連れていって勝治に置いてきぼりを食らわせたのも、こいつだ。勝治がぐっすり眠っている間に、有原はさっさとひとりで帰ってしまったのである。勝治は翌る日、勘定の支払いに非常な苦心をした。おまけにその一夜のために、始末のわるい病気にまでかかった。忘れようとしても、忘れる事が出来ない。けれども勝治は、有原から離れる事が出来ない。有原には、へんなプライドみたいなものがあって、決してよその家庭には遊びに行かない。たいてい電話で勝治を呼び出す。

「新宿駅で待ってるよ。」

「はい。すぐ行きます。」やっぱり出掛ける。

勝治の出費は、かさむばかりである。ついには、女中の松やの貯金まで強奪するようにさえなった。台所の隅で、松やはその事をお嬢さんの節子に訴えた。