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はなび

花火

太宰 治

「文芸」1942(昭和17)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,233 字 · 29 页

青空文庫

やがて廊下に、どたばた足音がして、

「や、図星なり、図星なり。」勝治の大きな声が聞えた。ひどく酔っているらしい。「白状すれば、妹には非ず。恋人なり。」まずい冗談である。

節子は、あさましく思った。このまま帰ろうかと思った。

ランニングシャツにパンツという姿で、女中の肩にしなだれかかりながら勝治は玄関にあらわれた。

「よう、わが恋人。逢いたかった。いざ、まず。いざ、まず。」

なんという不器用な、しつっこいお芝居なんだろう。節子は顔を赤くして、そうして仕方なしに笑った。靴を脱ぎながら、堪えられぬ迄に悲しかった。こんどもまた、兄に、だまされてしまったのではなかろうかと、ふと思った。

けれども二人ならんで廊下を歩きながら、

「持って来たか。」と小声で言われて、すぐに、れいの紙幣を手渡した。

「一枚か。」兇暴な表情に変った。

「ええ。」声を出して泣きたくなった。

「仕様がねえ。」太い溜息をついて、「ま、なんとかしよう。節子、きょうはゆっくりして行けよ。泊って行ってもいいぜ。淋しいんだ。」

勝治の部屋は、それこそ杯盤狼藉だった。隅に男がひとりいた。節子は立ちすくんだ。

「メッチェンの来訪です。