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はなび
花火
「文芸」1942(昭和17)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,233 字 · 29 页
勝治には、足りるわけがない。一日で無くなる事もある。何に使うのか、それは後でだんだんわかって来るのであるが、勝治は、はじめは、「わかってるじゃねえか、必要な本があるんだよ」と言っていた。小使銭を支給されたその日に、勝治はぬっと節子に右手を差し出す。節子は、うなずいて、兄の大きい掌に自分の十円紙幣を載せてやる。それだけで手を引込める事もあるが、なおも黙って手を差し出したままでいる事もある。節子は一瞬泣きべそに似た表情をするが、無理に笑って、残りの五円紙幣をも勝治の掌に載せてやる。
「サアンキュ!」勝治はそう言う。節子のお小使は一銭も残らぬ。節子は、その日から、やりくりをしなければならぬ。どうしても、やりくりのつかなくなった時には、仕方が無い、顔を真赤にして母にたのむ。母は言う。
「勝治ばかりか、お前まで、そんなに金使いが荒くては。」
節子は弁解をしない。
「大丈夫。来月は、だいじょうぶ。」と無邪気な口調で言う。
その頃は、まだよかったのだ。節子の着物が無くなりはじめた。いつのまにやら箪笥から、すっと姿を消している。はじめ、まだ一度も袖をとおさぬ訪問着が、すっと無くなっているのに気附いた時には、さすがに節子も顔色を変えた。