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かしょく

花燭

太宰 治

1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,501 字 · 38 页

青空文庫

自然の陽が、五年十年の風が、雨が、少しずつ少しずつかれの姿を太らせた。一茎の植物に似ていた。春は花咲き、秋は紅葉する自然の現象と全く似ていた。自然には、かなわない。ときどきかれは、そう呟いて、醜く苦笑した。けれども、全部に負けた、きれいに負けたと素直に自覚して、不思議にフレッシュな気配を身辺に感じることも、たまにはあった。人間はここからだな、そう漠然と思うのであるが、さて、さしあたっては、なんの手がかりもなかった。

このごろは、かれも流石に訪問客たちの接待に閉口を感じはじめていた。かれらの夜々の談笑におとなしく耳を傾けているのではあるが、どうにもやり切れない思いのすることがあった。かれには、訪問客たちの卑屈にゆがめられているエゴイズムや、刹那主義的な奇妙な虚栄を非難したい気持ちはなかった。すべては弱さから、と解していた。この人たちは皆、自分の愛情の深さを持てあまし、そうして世間的には弱くて不器用なので、どこにも他に行くところがなくなって、そうして僕のところに来ているのだ、気の毒である。せめて僕だけでも親切にもてなしてやらなければいけない、とそう思っていたのである。