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ちゃわんのきょくせん
茶碗の曲線
中谷 宇吉郎
――茶道精進の或る友人に――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,740 字 · 10 页
人体を構成している細胞の蛋白質の秘密が、窮極のところまで分っても、生命そのものは、現在の科学の方法をもってしては、永久に分らない。と少くも私はそういう風に思っている。
もっとも、個々の現象は複雑無限であって、その機巧は到底わからないが、そういう現象が非常にたくさん重り合って、全体として一つの現象を示すことがある。そしてそこに全体として或る法則が存在する場合には、それを取扱う科学の分野はある。統計の学問が即ちそれである。個人々々の死は予言出来ないが、国民全体としては、死亡率と年齢との関係がちゃんと存在している。その法則を知って初めて、生命保険業の経営が出来るわけである。
しかしこの場合は、数が非常に多くなくては駄目なので、例えば百人くらいの会員では、生命保険の理論はあてはまらない。この頃流行の推計学では、少数例の統計的研究法を盛んに論じているが、これもけっきょくは、大略の確率が出せるだけで、やむをえない場合にのみ使うべきである。
けっきょくのところ、枝ぶりの特異さとか、茶碗の曲線の味とかいうものは、科学の対象にはならないもののようである。厳密にいえば、科学的な方法で、その本態を捕えようという試みは、不可能ではないが、悧巧な方法ではない。