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「ちゃわんのゆ」のことなど

「茶碗の湯」のことなど

中谷 宇吉郎

「婦人之友」1942(昭和17)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,038 字 · 11 页

青空文庫

熱い湯を茶碗に入れて、蓋をしないで置いた場合に、それがだんだん冷えるのは、主として湯の表面からである。水が水蒸気になる時には、一グラムについて、五百何十カロリーという莫大な潜熱を奪うことは、中学校や女学校で習った通りである。湯の表面から蒸発の起る場合には、ほんの少しの条件のちがいで、著しい差があるので、湯の表面上で一様には起らない。それで湯の表面の「冷え方がどこも同じではないので、ところどころに特別に冷いむらが出来」る。「そういう部分からは冷えた水が下へ降りる。そのまわりの割合に熱い表面の水がそのあとへ向って流れる。それが、降りた水のあとへ届く時分には冷えてまたそこから下へ降りる。こんな風にして湯の表面には水の降りているところと昇っているところとが方々に出来る」ので、一杯の茶碗の湯の中でも、比較的熱い湯とぬるい湯とがいろいろに入り乱れているのである。

こういう液体の中へ光がはいって行く場合を考えて見ると、光の屈折率は水の温度によって異るので、ある部分は丁度レンズのような作用をして光を集め、他の部分はその蔭になるようなことが起るのが普通である。それで茶碗の底には、色々な形のゆらゆら動く光の紐が見えるのである。