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ちゃがゆのき

茶粥の記

矢田 津世子

「改造」1941(昭和16)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,568 字 · 30 页

青空文庫

その夜、久しぶりに清子は良人の夢を見た。亡くなってから初めて見る夢だった。良人は寝癖の、清子の耳たぼを優しくつまぐりながら、もつれたような声で何かくどくどと話しかけた。その長話にいらいらして、夢の中の清子は不機嫌に黙りこんでいた。

霊泉寺の朝は小鳥の声で明ける。淡緑りの背を光らせて飛んでいる鶺鴒がまず眼にふれた。飛びながらツツツ……と啼く。屋根に止まり長い尾で瓦をたたきながらツウン、ツウンとはりあげる。澄んだ美しい声である。水を飲みに池のふちに下りたのも尾でたたきたたき啼いている。池には紅葉の木が枝を張り出して、根かたに篠笹がひとかたまり、明るい陽射しの中に福寿草が含羞むようなすがたで咲いていた。

朝食前、清子は姑に添うて散歩に出た。四五軒の湯宿と雑貨や駄菓子などを商う小店と、あとは川を挟んで飛びとびに農家があるばかりだった。山寄りの小高い寺の建物は、ここには似合わぬくらいの宏壮さである。朽ちかけた山門、空洞のある欅の大樹、苔むした永代常夜燈、その頂きの傘に附してあるシャチも※(「てへん+宛」、第3水準1-84-80)ぎとられたり欠けたりしていた。