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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
永井荷風『荷風随筆集(上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:葛飾土産、鐘の声、銀座、里の今昔、寺じまの記、伝通院、夏の町、日和下駄、深川の散歩、放水路、水のながれ、向嶋、向島、元八まん、霊廟。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,224 字 · 269 页
「桜は向嶋最も盛なり。中略三囲の鳥居前より牛ノ御前長命寺の辺までいと盛りに白鬚梅若の辺まで咲きに咲きたり。側は漂渺たる隅田の川水青うして白帆に風を孕み波に眠れる都鳥の艪楫に夢を破られて飛び立つ羽音も物たるげなり。待乳山の森浅草寺の塔の影いづれか春の景色ならざる。実に帝都第一の眺めなり。懸茶屋には絹被の芋慈姑の串団子を陳ね栄螺の壼焼などをも鬻ぐ。百眼売つけ髭売蝶売花簪売風船売などあるいは屋台を据ゑあるいは立ちながらに売る。花見の客の雑沓狼藉は筆にも記しがたし。明治三十三年四月十五日の日曜日に向嶋にて警察官の厄介となりし者酩酊者二百五人喧嘩九十六件、内負傷者六人、違警罪一人、迷児十四人と聞く。雑沓狼藉の状察すべし。」云※(二の字点、1-2-22)
わたくしはこれらの記事を見て当時の向嶋を回想するや、ここにおのずから露伴幸田先生の事に思到らなければならない。
そもそも享保のむかし服部南郭が一夜月明に隅田川を下り「金竜山畔江月浮」の名吟を世に残してより、明治に至るまで凡二百有余年、墨水の風月を愛してここに居を卜した文雅の士は勝げるに堪えない。しかしてそが最終の殿をなした者を誰かと問えば、それは実に幸田先生であろう。