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しょうたく
荷風随筆集(下)〔全2冊〕
永井 荷風
永井荷風『荷風随筆集(下)〔全2冊〕』。同一底本的分册已合并为一书。收入:妾宅、十九の秋、十六、七のころ、十日の菊、雪の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,633 字 · 74 页
自己を下賤醜悪にしてまで存在を続けて行く必要が何処にあろう。潔よく落花の雪となって消るに如くはない。何に限らず正当なる権利を正当なりなぞと主張する如きは聞いた風な屁理窟を楯にするようで、実に三百代言的、新聞屋的、田舎議員的ではないか。それよりか、身に覚えなき罪科も何の明しの立てようなく哀れ刑場の露と消え……なんテいう方が、何となく東洋的なる固有の残忍非道な思いをさせてかえって痛快ではないか。青山原宿あたりの見掛けばかり門構えの立派な貸家の二階で、勧工場式の椅子テーブルの小道具よろしく、女子大学出身の細君が鼠色になったパクパクな足袋をはいて、夫の不品行を責め罵るなぞはちょっと輸入的ノラらしくて面白いかも知れぬが、しかし見た処の外観からして如何にも真底からノラらしい深みと強みを見せようというには、やはり髪の毛を黄く眼を青くして、成ろう事なら言葉も英語か独逸語でやった方がなお一層よさそうに思われる。そもそも日本の女の女らしい美点――歩行に不便なる長い絹の衣服と、薄暗い紙張りの家屋と、母音の多い緩慢な言語と、それら凡てに調和して動かすことの出来ない日本的女性の美は、動的ならずして静止的でなければならぬ。