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おちたままのネジ

落ちたままのネジ

宮本 百合子

「時事新報」1936(昭和11)年10月6~8日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,144 字 · 9 页

青空文庫

いかにも志賀氏らしい言葉であると、当時私は面白く思った。そういう一見はっきりした潔癖性、この人生における座の構えによって、その構えを可能にしている土台のある限り、志賀氏のリアリズムは「万暦赤絵」の境地に安坐するであろう。そう思ったのであった。

「強者連盟」の梅雄の生活感情を読み、「新しき塩」で魚住の云っていることを読むと私の記憶には志賀直哉氏の言葉まで甦って来る。そして、一つの声を加えるのである。

石坂洋次郎氏の「麦死なず」を流れる感情も根柢に於ては、ここに血脈をひいている。「麦死なず」に対する批評に向って反駁的、勝者的気分で書かれている同氏の「悪作家より」(改造・十月号)でその気分は極めて率直と云えば率直、高飛車と云えば高飛車に云われているのである。

石坂氏のように、さア、返事はどうだというような気持も、主観的には壮快なるものがあるかもしれない。だが、今日の文学が、過去の或る期間においては十分云い切る自信を与えられなかった作者自身のうちに在るそういう社会感情の一面を開放しつつあるという現象は、果して今日の作家の、より高い、人間的・文化的自由の獲得を意味しているのであろうか。