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らくらいのあと

落雷のあと

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,072 字 · 14 页

青空文庫

いたのです。矢野さんのところには、事業関係の来客が数人あって、大した饗応だとのことでした。夜になって、妹は米飯と野菜の煮物をもらって帰ってきました。残りものだけれどお母さんにと、そういうことでした。その残飯を、粉飯ばかりの折柄に珍らしく美味しく、母と妹と彼と三人で食べました。母の配慮で、翌日の彼の弁当の量だけ取り除けられていました。食事をしながら、話は食物のことに向いがちでした。矢野さんのところの御馳走には、鯛の刺身や車蝦の煮附や鰻の蒲焼やにぎり鮨などがあったとのことでした。その鮨に母はひっかかりました。何が食べたいといって、お鮨にこしたものはなく、お鮨さえ充分食べたらもう本望だと、淋しそうに言いました。妹はそれを笑って、ショートケーキが一番食べたいと言いました。カステーラよりもっとふわふわして、はるかに甘く、とろりとしたクリームがかかっていて、苺や林檎や桃があしらってある、あれが一番よいと述べ立てました。鮨やショートケーキなら、戦死した弟も好きでした。或は母と妹は、弟が好きなことを意識して言ってるのかも知れませんでした。二郎もそれが好きだったよと、彼がうっかり言いますと、母と妹はちょっと話を途切らしました。