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ヒューネラル・マーチ

葬送行進曲

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1931(昭和6)年4月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,494 字 · 25 页

青空文庫

充分に若くてハイカラで、妖艶な感じのする夫人は、良人の頑固な態度が心憎いと思う様子で、クッションの上を摺り寄って、男の丸々と肥った膝に、華奢な片手を掛けました。

「あらそんな、大きい声をなさると、中へ聞えますワ」

「併しそんな事を言うのも、決して根拠の無いことでは無いんだ、知っての通り、仏滅も鬼門も担がない俺だが、何うしたものかあの葬送行進曲だけは恐ろしいよ」

「どんな事がありましたの?」

気味も悪くもあるが、充分好奇心を動かされたらしく、良人の顔を仰いで、いつも物強請をする時のように、大きい眼を細めて少し受け口の唇を歪めます。

「笑っちゃいけないよ――」

讃之助は、もう葬送行進曲を了えて華やかな第四楽章のプレストに入ったらしい音を遠音に聞き乍ら、場所柄を超越した呑気さで話し出しました。

「俺の学生時代には、レコードに入って居るパッハマンの弾いたあの曲は不吉だと言われたものだ。俺の経験から言っても、あのレコードを買った翌る日の晩母に死なれたのを手始めに、あの曲のレコードを掛けて聴く毎に、何んかしら不吉な事が一つずつ起るんだ、全く不思議だったよ」

其処まで言って讃之助は、フッと言葉を切りました。