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ヒューネラル・マーチ
葬送行進曲
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1931(昭和6)年4月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,494 字 · 25 页
「私は隆の事が気になって、どうにも我慢が出来ませんでした。それに久し振りで貴方にも一度お逢いしたかったのです、――家庭教師を探して居るという話を人伝に聞いて、あらゆる運動をして、到頭此家に入り込んだのは其為で御座います」
子供に逢い度かったと強調しては居りますが、勢子の未練は昔の夫の讃之助の上にも充分に残って居たのでしょう。長椅子に押し並んで掛けた身体は、兎もすれば讃之助の方へ摺り寄って、盲目的に犇とすがり付きそうな衝動に悩まされて居る様子がマザマザと見えます。
「それからの事は申す迄もありません。昔私の占めて来た地位は、あの貴美子夫人が占めて、私などはもう寄付けそうもありません。せめて自分の腹を痛めた隆が、本当の母とも知らずに、盲目的な本能に引摺られて、私になついて来るのを慰めに、この一年間は無事に過ぎました。この儘隆が殺されさえしなければ――」
「オイオイ、待ってくれ。お前は隆が殺されたと思って居るのか」
驚いて起き直った讃之助の言葉は、何時の間にやら昔の夫のそれに返って居ります。
「え、え、誰が何んと言っても、隆は殺されたに相違ありません。母の私が、本能で嗅ぎ出したんですもの」