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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
の女に取ってどれほどの役に立つであろう。見る物と云えば人形芝居、たべる物と云えば蕨やぜんまいの煮つけでは、お久も命がつづくまい。たまには活動も見たかろうし、洋食のビフテキもたべたいであろうに、それを辛抱しているのはさすがに京都生れであると、要はときどき感心もすれば、この女の心の作用を不思議に思うこともある。そう云えば老人は、ひところ投げ入れの活け花を覚え込ませるのに夢中であったが、それがこの頃は地唄になって、週に一度ずつ、わざわざ大阪の南の方に住んでいる或る盲人の検校の許まで二人で稽古に行くのである。京都にも相当の師匠はあるのに大阪流を習うというのは、それにも老人の味噌があって、彦根屏風の絵姿などからひねり出した理窟ででもあろうか、地唄の三味線というものは、大阪風に、膝へ載せないで弾くのがいい。どうせ今から習ったのでは上手になろう筈もないから、せめて弾く形の美しさに情趣を酌みたい。若い女が畳の上へ胴を置いて、からだを少しねじらせながら弾いている姿には味わいがある、とそう云っては、お久の三味線を聞くと云うよりも眺めて楽しもうというのであった。
「さあ、そう云わないでもう一つどうぞ、………」