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たでくうむし

蓼喰う虫

谷崎 潤一郎

「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页

青空文庫

舞台には一面に朝顔の模様のついた友禅の幕が垂れていて、多分序幕の螢狩りのところであろう、駒沢らしい若い侍の人形と、深雪らしい美しいお姫様の人形とが、船の上で扇をかざしながら膝をすり寄せてうなずき合ったり、ささやいたりしている。場面から云えば艶な所であるけれども、太夫の声も三味線のひびきも一向場内に徹らないので、ただその可愛い二人の男女の動くのばかりを見ていると、文五郎などが使うような写実的な感じではなく、人形たちも村の子供と一緒になって、無邪気に、あどけなく、遊んでいるかのようである。

お久は桟敷にしようと云うのを、人形芝居は下から見るに限ると云う意見の老人は「ここがいいね」と殊更土間へ席を取ったので、若葉の萌える頃ではあるが、据わっているとうすい坐布団をへだてて地べたの湿気と底冷えとが感ぜられる。

「おいどがちみとうてかなわんわ」

と、お久は臀の下に布団を三枚も入れながら、

「なあえ、こないなとこにおいやしたら毒どすえ」

と、しきりに桟敷に変ることをすすめるけれど、

「まあまあ、こう云う所へ来てそんな贅沢を云うもんじゃあない。ここで見なけりゃ矢っ張り情が移らないから、つめたいのは辛抱するさ。