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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
よい色を覗かせている。こう云う折には芝居の筋なぞそう気に留める必要はない。ただうっとりと人形の動くのを視つめていれば沢山である。そして見物人たちのガヤガヤ云うのが、一向邪魔にならないのみか、いろいろの音、いろいろの色彩が、万華鏡を見るように、花やかに、眼もあやに入り乱れながら、渾然とした調和を保っているのである。
「のどかですなあ。―――」
と、要はもう一ぺんその言葉を繰り返した。
「しかし人形も思いの外だよ、深雪を使っているのなんぞはそう下手でもないじゃないか」
「そうですねえ、もう少し原始的なところがあってもいい筈ですねえ」
「こう云うものは何処でやっても大体型がきまってるんだな、義太夫の文句に変りがない以上、手順が同じになる訳だから」
「淡路特有の語りかた、と云うようなものはないんでしょうか」
「聞く人が聞くと、淡路浄瑠璃と云っていくらか大阪とは違うんだそうだが、わたしなんかには分らないね」
一体、「型に篏まる」とか「型に囚われる」とか云うことを、芸道の堕落のように考える人もあるけれども、たとえばこの農民芸術の所産である人形芝居にしてからが、とにかくこれだけに見られるというのは畢竟「型」