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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
「まあお前、要さんは面白いと云うんだから、―――」
と、老人は何処かだだッ児じみた感じの現れる気短かそうな眉を寄せた。
「―――そう云わないでもう少し附き合ったらいいだろうに。松竹なんか又出直しても済むんだから」
「ええ、要が見たいって云うのなら見てもいいんですけれど」
「それにお前、お久がゆうべからかかって弁当を拵えて来たんだから、そいつをたべて行っておくれ。こんなにあっちゃあ私たちじゃあたべ切れやしない」
「何お云やす、わざわざ上っていただくほどおいしいことおへんえ」
三人の言葉の取りやりを子供が大人の傍にいるように無関係に聞き過していたお久は、そう云ってきまり悪そうに、はすかいに載っていた組重の蓋を直して、四角な入れ物へモザイクのように詰まっている色どりを隠した。が、高野豆腐を一つ煮るのにもなかなか面倒な講釈をする老人は、この歳の若い妾を仕込むのに煮焚きの道をやかましく云って、今ではお久の料理でなければ口に合わないと云うほどなので、それを二人に是非ともたべさせたいのであった。
「松竹はもう遅いだろう。明日におしよ」
と、要は「松竹」と云う中へ「須磨」を含ませて云った。