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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
「すると今度は夏の休みまで機会がないんだね」
「うん、夏だとずっと休みの期間も長いしするから、………」
「そう云うことを云っているんじゃ、実際際限がないんだがなあ。夏になったら又どんな事情が湧くかも知れんし、………」
肉はないけれども骨太の上に静脈のグリグリしている、男性的に痩せた高夏の手が、酒のせいか重い物をじっと持ちこたえている時のようにふるえていた。彼はその手を鍋の下へ伸ばして、葉牡丹のように重なった葉巻の灰の層をどさりと焜炉の水に落した。
こうしてたまに、二た月に一度か三月に一度ずつ帰って来る従弟を迎えるたびに、常に感じることと云うのは、要は口でこそ「いつ別れる」を問題にしているようなものの、まだほんとうは「別れるか別れないか」さえしっかり決断がついているのではないのである。それを従弟が別れることに極めてしまって、ひたすら時機ばかりを考慮のうちに入れているのは、従弟自身が「別れてしまえ」と云う強硬な意見だからではなく、別れることは最早や動かす可からざる決定であるとして、ただその手段についてのみ相談を受けるからなのである。要は決して心にもない強がりを云うのではないのだが、いつも従弟の顔を見るとその男らしい果敢な気風にかぶれるせいか、自然と自分にも勇気が出て来て、既に覚悟がついているような話しぶりになるので