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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
「うん、どんな寒い日でも一遍ぐるッと廻って来ないと気持が悪いね」
「犬を此方へ連れて来させたらいいじゃないか」
要はヴェランダの日だまりを動くのが厭だという形で、梅の樹の方へ立って行く二人に云った。
「弘や、お父さんがリンディーを連れていらっしゃいッて」
「リンディー!」
繁みの向うの梅の枝がざわざわと揺いで、ピオニーの方が突然ひいひいしゃがれ声を立てた。
「これ! ピオニー、これ!―――小父さん、小父さん、ピオニーが邪魔をして仕様がないから、連れに来て下さいよ」
「いやだよ、ピオニー! ま、そう跳び着いちゃ………いやだったら!」
頬を舐められそうになった美佐子は、庭下駄のまま慌ててヴェランダへ駈け上りながら云った。
「お前はしつッこいからいやさ、ほんとに。―――ピオニーなんか連れて来ないでもよかったのに」
「だってお母さん、騒いで仕様がないんですよ」
「犬と云う奴はひどく焼き餅焼きだからね。―――」
階段の下に立っているリンディーの傍にしゃがんで、高夏は平手でしきりに犬の喉頸を撫でていた。
「何をしてるんだ。だにでもいるのか?」
「いや、此処をこうしてさすって見給え、実に妙だよ」