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たでくうむし

蓼喰う虫

谷崎 潤一郎

「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页

青空文庫

―――どう? これは?」

「それか?」

「それか?―――ッて、何よ?」

「そいつは麻布の一番下の妹にやる積りだったんだ」

「まあ、驚いた、そりゃ鈴子さんがお可哀そうだわ」

「驚いたとは僕の方で云うこッてすよ。こんな派手な帯をしようなんて、色気違いだな」

「ふ、ふ、どうせあたしは色気違いよ」

はっと高夏が思った時はもう遅かったが、美佐子はその場を救うためにわざとずうずうしく笑った。

「や、失言、失言。今のは本員の過ちでありました。唯今の言葉は取り消しますから、速記録へは載せないように願います」

「駄目よ、今更取り消したって。もう速記録へ載ってしまってよ」

「本員は決して悪意で申したのではない。しかし故なく淑女の名誉を傷けたるのみならず、妄りに議場を騒がしたる罪は謹んで陳謝いたします」

「ふ、ふ、あんまり淑女でもないんだけれど、………」

「では取り消さないでもいいですか」

「いいわ、どうせ。―――いずれ傷のつく名誉なんだから」

「そう云ったもんでもないでしょう。傷をつけないようにと云うんで、いろいろ苦心してるんでしょう」

「それは要はそうなんですけれど、そんなことを云ったって無理だと思うわ。