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くらのにかい

蔵の二階

豊島 与志雄

「思索」1949(昭和24)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,351 字 · 27 页

青空文庫

足音を盗んでまで階段を降りて来た。久子がふと眼をさますと、桂一の枕頭にカヨが木像のように坐っていた。二燭光の電球に更に覆いをした薄暗いなかに、半白の髪の頭を傾け、仄白い顔を冷たくして、桂一の寝息をじっと窺っている。久子はまだすっかり覚めきらぬ心地のなかで、ぞっと冷水をあびた思いがして、飛び上るように身を起した。

「静かに。」とカヨは振り向きもせずに手で制した。「このぶんなら、じきになおりますよ。」

カヨは足音を盗んで階段を昇っていった。

そのようなことが、久子には夢かとも疑われた。気持よい夢ではなく、悪夢のような感じだった。土蔵の雰囲気のせいなのであろうか。然し桂一の病気は、予言通り間もなくなおった。

新築について、カヨを説得しなければならない。これが困難だった。耳の錯覚とか、眼の錯覚とか、土蔵の雰囲気とか、戦争についての謬見とか、そんなことでは、彼女にとっては理由になりそうにない。考えあぐんだ末、桂介はよいことを思いついた。白壁造りの家にするのだ。縁側や雨戸は見遁して貰う。だいたい三方とも、羽目板ではなく白壁にする。それなら土蔵と大した変りはない。