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そばのはなのころ

蕎麦の花の頃

李 孝石

「文学案内」1937(昭和12)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,494 字 · 16 页

青空文庫

――伝法な野郎共ときたら、全くしまつにおえねえ。

――驢馬を嫐る奴あ、ただではおかねえぞ。

半生を共にしてきた驢馬だった。一つ宿に寝、同じ月を浴び、市から市をてくり廻っているうち、二十年の歳月がめっきり老を齎らしてしまった。すりきれたくしゃくしゃの鬣は、主のそそけた髪にも似て来、しょぼしょぼ濡れている眼は、主のそれと同じくいつも目脂をたたえていた。箒みたいに短くなった尻尾は、蠅をおっ払うため精一杯振ってももう腿には届かなかった。次の道中にそなえるため、すり減った蹄を削り削り何度新しい鉄を嵌め換えたか知れない。だがもう蹄は延びなくなり、すり切れた鉄のすきまからは痛々しく血がにじみ出ていた。匂で主人が判った。いつも訴えるような仰山な嘶き声で迎える。

よし、よし、と赤児でもあやす気持ちで頸筋を撫でてやると、驢馬は鼻をびくつかせながら口をもってきた。水っ洟が顔に散った。許生員は馬煩悩だった。よっぽど悪戯がきいたと見え、汗ばんだ躯がびくびく痙攣りなかなか昂奮のおさまらぬ面持だった。馬勒がとれ、鞍もどこかへ落ちてしまっている。やい、しょうちのならねえ餓鬼共、と許生員は我鳴り立ててもみたが、連中はおおかた散り失せたあとで、数少くとり残されたのが権幕に気圧されあたりから遠のいているだけだった。