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しょうしょうじゅうさんねん

蕭々十三年

山本 周五郎

「新国民」1942(昭和17)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,105 字 · 16 页

青空文庫

その朝はことに霜がひどく、あたりは見わたすかぎり雪のように白かった。凍てた道を戞々と近づいて来る馬蹄の音に、半九郎がじっと堤のかなたを見やると、忠善が単騎、すばらしい速度でこちらへ疾駆して来る。……半九郎は大剣をとって投げだし、霜の路上にぴたっと平伏した。

「……なに者だ」

忠善は馬足をゆるめながら近づいて来た。半九郎は道のまん中へ貼着くように平伏していたが、しずかに面をあげてひっしと主君を見た。

「御馬前をおどろかし申し訳ございません、半九郎めにございます」

「……なにごとだ」忠善は冷やかに見下ろした。

「かねて重役がたへお目通りを願い出ましたが、どうしてもお許しがさがらず、かように押してお目通りを汚し奉りました、わたくし先般お役御免のお達しを蒙りましたが、奉公未熟のいたすところと重々おそれいり奉りまする、いかなる疎忽に依って御意を損じましたるや、篤と考えましたなれども未熟者のわたくしには合点のまいらぬ節がございます」半九郎の眼は真心を訴えるはげしい光りにあふれていた、彼はひたと主君の顔を見あげ、馬の足にとりすがらんばかりにしてつづけた、「半九郎めはただひと筋に御奉公を心がけてまいりました、そのほかには生きる道とてもございません、もしや誰人か殿に言上することなどあって、御意に触れたのではないかとも思われ……