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あざみ
薊
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页
「待て」銕太郎は遮って反問した、「薊の花はわかった、しかし跡目のことをなにか云ったが、跡目のことがどうだというのだ」
「薊の花には実が生らないというわけです」
「おれの妻がうまずめだということか」
「祝言をして何年になりますか」
「それは岡野の知ったことではない」
「どうしてわかります」
銕太郎はかっとなった。岡野の表情や口ぶりに、あからさまな嘲弄と悪意が感じられたからだ。村尾家のときには、ただいつものくだだと思い、すばらしい花を手に入れた、という言葉もそのままで受取った。しかしいまのようすはまったく違うし、「花」という一語も、「薊」という表現につながっている。岡野はなにかを知っており、そのことで銕太郎を嘲弄しているのだ。そう思うと、酔のために誇張された怒りで、彼は平生の慎みも忘れ、片膝立てになって叫んだ。
「きさまいったい、なにが云いたいんだ」
その声で一座が急にしんとなり、みんなが二人のほうを注視した。岡野は歪んだ微笑をうかべ、そんなにどならなくてもいいでしょう、と云った。その卑屈な微笑が、却って銕太郎の怒りを煽った。
「云ってみろ」と彼は叫んだ、「男なら男らしく、云いたいことをはっきり云ったらどうだ、云えないのか」