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あざみ

薊

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页

青空文庫

一年の江戸番が終って帰ったとき、寝間をべつにするという話になった。おれはむろん承知したが、男臭さが辛抱できない、という理由は不愉快だった。他人のことは知らない、けれども、夫婦になればもう単なる男と女ではない、良人と妻とは一心同躰というくらいではないか。おれの躰臭が特に強いならばべつだが、これまでそんなことを云われた記憶はない。しかもおれには妻のからだの匂いが極めて好ましい、妻の肌に触れ妻の匂いに包まれていると、おれはたとえようもない安息と満足感に浸される。それが妻には辛抱できないというのはどういうわけか。

「それは男のわがままと自分勝手な考えかたです」とゆきをが云った、「男はなにごとも自分を中心に考えたりふるまったりなさる、女を愛するときはことにそうです」

銕太郎はまた振向いた。ゆきをは鏡に向って化粧をしてい、鏡の中から良人のほうを見ていた。

「たとえば、額田さまの御夫婦は仲のいいことで評判です」とゆきをは云った、「けれどもそれは表面だけのことで、妻女の松世さまは良人の毛深い手足や肌に触ることが、身の冰るほどいやだと仰しゃっています」

「ではおまえはどうだ」