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ふじのみ
藤の実
寺田 寅彦
「鉄塔」1933(昭和8)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,795 字 · 6 页
自分の関係しているある研究所の居室の室外にこの木の大木のこずえが見えるが、これが一様に黄葉して、それに晴天の強い日光が降り注ぐと、室内までが黄金色に輝き渡るくらいである。秋が深くなると、その黄葉がいつのまにか落ちてこずえが次第にさびしくなって行くのであるが、しかしその「散り方」がどうであるかについては去年の秋まで別に注意もしないでいた。ところが去年のある日の午後なんの気なしにこの木のこずえをながめていたとき、ほとんど突然にあたかも一度に切って散らしたようにたくさんの葉が落ち始めた。驚いて見ていると、それから十余間を隔てた小さな銀杏も同様に落葉を始めた、まるで申し合わせたように濃密な黄金色の雪を降らせるのであった。不思議なことには、ほとんど風というほどの風もない、というのは落ちる葉の流れがほとんど垂直に近く落下して樹枝の間をくぐりくぐり脚下に落ちかかっていることで明白であった。なんだか少し物すごいような気持ちがした。何かしら目に見えぬ怪物が木々を揺さぶりでもしているか、あるいはどこかでスウィッチを切って電磁石から鉄製の黄葉をいっせいに落下させたとでもいったような感じがするのであった。