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とうじゅうろうのこい
藤十郎の恋・恩讐の彼方に
菊池 寛
菊池寛『藤十郎の恋・恩讐の彼方に』。同一底本的分册已合并为一书。收入:藤十郎の恋、ある恋の話、入れ札。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,146 字 · 74 页
そして明治十二三年頃に、その一人娘をその頃羽振の好かった太政官の役人の一人である、私の妻の父に嫁がせたのです。祖母の結婚が不幸であったのと反対に、その娘の結婚は可なり祝福されたものでした。祖母は、間もなくその娘の家に、引き取られて其処で幸福な晩年を送りました。孫達を心から愛しながら、又孫達に心から愛されながら。
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私が妻の祖母を知ったのは、無論妻と結婚してからであります。その時は、祖母は七十を越えていましたが、後室様と云っても、恥しくないような品位と挙動とを持った人でした。私の妻が彼女の一番末の孫に当っていましたから、彼女の愛情は、当時私の妻が独占していると云う形がありました。従って、三日にあげず、私達の新家庭を尋ねて来ました。美しい容貌を持ちながら十八の年から後家を通した人だけあって、気の勝った男のように、ハキハキ物を云う人でありました。
何時も、車の音が門の前にしたかと思うと、彼女の華やかな、年齢よりは三四十も若いような声がしまして、
「又年寄がお邪魔に来ましたよ。若い者同志だと、時々喧嘩などを始めるものだから」などと、その年齢には丸きり似合わないような、気さくな、年寄にしては蓮葉な挨拶をしながら、どしどし上って来るのでありました。