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とうじゅうろうのこい
藤十郎の恋・恩讐の彼方に
菊池 寛
菊池寛『藤十郎の恋・恩讐の彼方に』。同一底本的分册已合并为一书。收入:藤十郎の恋、ある恋の話、入れ札。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,146 字 · 74 页
「じゃ、みんな腑に落ちたんだな。それじゃ、浅と喜蔵と嘉助とを連れて行こう。九郎助は、一枚入っているから連れて行きたいが、最初云った言葉を変改することは出来ねえから、勘弁しな。さあ、先刻からえろう手間を取った。じゃ、みんな金を分けて銘々に志すところへ行ってくれ」
乾児の者は、忠次が出してあった裡から、銘々に十二両ずつを分けて取った。
「じゃ、俺達は一足先に行くぜ」忠次は選まれた三人を、麾くと、みんなに最後の会釈をしながら、頂上の方へぐんぐんと上りかけた。
「親分、御機嫌よう。御機嫌よう」
去って行く忠次の後から、乾児達は口々に呼びかけた。
忠次は、振り向きながら、時々、被っている菅笠を取って振った。その長身の身体は、山の中腹を掩うている小松林の中に、暫くの間は見え隠れしていた。
取り残された乾児達の顔には、それぞれ失望の影があった。
「浅達が付いていりゃ、大した間違はありゃしねい!」
口々に同じようなことを云った。が、やっぱり、銘々自分が入れ札に洩れた淋しさを持っていた。
が、忠次達の姿が見えなくなると、四五人は諦めたように、草津の方へ落ちて行った。
九郎助は、忠次と別れるとき、目礼したままじっと考えていた。