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ふじだなのかげから
藤棚の陰から
寺田 寅彦
「中央公論」1934(昭和9)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,285 字 · 17 页
なるほど、睡蓮には目もなければ手もないから、水面が五寸上にあるか三尺上にあるかわからない。もしか六尺も上にあったら、せっかく花の用意をしてもなんの役にも立たないであろう。自然界を支配する経済の原理がここにも現われているのであろう。
このつぼみが最初に水面をさぐりあてて安心してもぐり込んだ後に、こっそり鉢をもっと深く沈めておいたら、どういうことになるか。
これは一度試験してみる価値がありそうである。花には少し気の毒なような気はするが。
三
虞美人草のつぼみははじめうつ向いている。いよいよ咲く前になって頭をもたげてまっすぐに起き直ってから開き始める。ある夏中庭の花壇にこの花を作ったとき、一日試みに二つのうつ向いたつぼみの上方にヘアピン形に折れ曲がった茎を紙撚りのひもでそっと縛っておいた。それから二三日たって気がついて見ると、一つは紙ひもがほどけかかってつぼみの軸は下方の鉛直な茎に対して四五十度ぐらいの角度に開いて斜めに下向いたままで咲いていた。もう一つのは茎の先端がずっと延びてもう一ぺん上向きに生長し、そうしてちゃんと天頂を向いた花を咲かせていた。