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やぶおとし

藪落し

山本 周五郎

「アサヒグラフ」1935(昭和10)年2月17日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,118 字 · 14 页

青空文庫

――よし、きっと捜し当てる。

勘三郎は確心ありげに云ったが、腹の中では苦しかった、じつのところ彼はもうやまさがしには絶望しかけていたのである。祖父の調べた記録にしたがって、かんば沢の奥はほとんど残るところなく歩いたのだが、どこにもそれらしいものがない、渓流に洗われるところにはよく砿脈が露われているというので、沢沿いに水源地近くまで遡ってみた、それからまた紫水晶のある岩は月夜になると螢光を発するということを聞いたから、月の佳い夜ごとにそれと思われる場所へ行ってみたりした、しかしみんなそれは無駄骨折りにすぎなかったのだ。世間でいうようにここには水晶はなくなっているのかも知れぬ。

お豊が寝つき、母が死に、夏から冬へかけてながいこと家にいるあいだに、勘三郎はもうふたたび山へは入るまいと思いはじめ、祖父の遺した覚書なども見えぬところへしまいこんでしまった、――死ぬ気になって働けば、たとえ失った財産を全部回復することはできないとしても、親子三人の生きるだけはやっていけるであろう、そういうことを何度も考えたのである、けれど――そう決心をするあとからなんとも知れぬ空虚な、いらだたしい不安が襲いかかってくる、籾選りなどしているとふっと気がつくと、いつか茫然と山を見守っているのだ。