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あしかり
蘆刈
谷崎 潤一郎
「改造」改造社、1932(昭和7)年11月号、12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,413 字 · 78 页
といったりしてお遊さまのことをわすれずにいておくれよ、己がこうして毎年おまえをつれてくるのはあのお方の様子をお前におぼえておいてもらいたいからだと涙ぐんだこえでいうのでござりました。わたくしはまだ父のいうことがじゅうぶんには会得できませなんだがそれでも子供は好奇心が強うござりますし父の熱心にうごかされて一生懸命に聴こう聴こうといたしましたのでこうなんとなく気分がつたわってまいりましておぼろげにわかったようなかんじがしたのでござります。で、そのお遊さまという人はもと大阪の小曾部という家のむすめでござりましてそれが粥川という家へ器量のぞみで貰われて行きましたのが十七のとしだったそうにござります。ところが四、五年しましてから御亭主に死に別れまして二十二、三のとしにはもう若後家になっていたのでござります。もちろん今の時節ならばそんなとしから後家をたてとおす必要もござりませぬし世間もだまって捨てておくはずはござりませぬけれどもそのころは明治初年のことで旧幕時代の習慣が残っておりましたし、実家の方にも嫁入り先の粥川の方にもやかましい老人がいたということでござりますし、ことに亡くなった