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あしかり

蘆刈

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1932(昭和7)年11月号、12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,413 字 · 78 页

青空文庫

ようにぼやけていて、どぎつい、はっきりした線がない、じいっとみているとこっちの眼のまえがもやもやと翳って来るようでその人の身のまわりにだけ霞がたなびいているようにおもえる、むかしのものの本に「蘭たけた」という言葉があるのはつまりこういう顔のことだ、おゆうさまのねうちはそこにあるのだというのでござりましてなるほどそう思ってみればそう見えるのでござります。大体そういう童顔の人は所帯やつれさえしなければわりあいに若々しさを失わないものでござりますがお遊さんは十六、七の時から四十六、七になりますまで少しも輪郭に変りがなくていつみても娘々したういういしいかおをしていた人だと叔母なども始終そう申しておりました。でござりますから父はその、お遊さんのぼうっとした、いわゆる「蘭たけた」ところに一と眼でこころをひかれたのでござりまして父の趣味をあたまにおいてお遊さんの写真を見ますとなるほどこれなら父が好いたであろうということが分ってまいるのでござります。つまり一と口に申しますなら、古い泉蔵人形の顔をながめておりますときに浮かんでまいりますような、晴れやかでありながら古典のにおいのするかんじ、おくぶかい