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そせい

蘇生

豊島 与志雄

「新小説」1918(大正7)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,974 字 · 31 页

青空文庫

その時彼女は云った、「嬉しい!」そして苦悩の口と残忍な眼と信頼の頬とで彼に微笑んだ。彼も同じように微笑んだ(と思った)。「慶子さん!」と彼は云った。「嬉しい!」と彼女はまた云った。二人の声は泣き声に震えていた。然し二人共涙は流さなかった。

――それは殆んど名状し難い時間だった。二人の取り合った手がぶるぶると震えて、次第に深く喰い込んでいった。敬助の頭の中にはあらゆる感情が混乱して渦を巻いた。それを或る大きな黒い翼がしきりに羽叩いた。と急にあたりがしいんと静まり返った。後には何物も残らなかった。彼は眼を閉じて、握りしめた慶子の手一つを頼りにした。時間が飛び去って行った。腹の底から棒のようなものがこみ上げて来た。彼は息をつめてそれをぐっと押えつけた。するとその棒が急にしなしなに崩れて、頭の中にがあんと大きい響きが起った。その時、慶子がかっと赤いものを吐き出して彼の方へ倒れかかって来た。彼はその身体を両腕に抱き取った。そしてしきりにその身体を振り廻した(と思った)。それから彼は意識を失った。――

その光景がまざまざと、而も霧を通して見るような静けさを以て、敬助の頭の中に浮んできた。