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きょこうのはる

虚構の春

太宰 治

「文学界」1936(昭和11)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,586 字 · 108 页

青空文庫

しらじらと明け放れると共に、そのような努力が、何故とも知らず、馬鹿くさく果無く思われ、『やがて死ぬるいのち。』という言葉だけがありがたく、その日も為すところなく迎えてそうして送っていただけなのである。けれども、――(一行あき。)一日読書をしては、その研究発表。風邪で三日ほど寝ては、病床閑語。二時間の旅をしては、芭蕉みたいな旅日記。それから、面白くも楽しくも、なんともない、創作にあらざる小説。これが、日本の文壇の現状のようである。苦悩を知らざる苦悩者の数のおびただしさよ。(一行あき。)私は今迄、自己を語る場合に、どうやら少しはにかみ過ぎていたようだ。きょうよりのち、私は、あるがままの自身を語る。それだけのことである。(一行あき。)語らざれば憂い無きに似たり、とか。私は言葉を軽蔑していた。瞳の色でこと足りると思っていた。けれども、それは、この愚かしき世の中には通じないことであった。苦しいときには、『苦しい!』とせいぜい声高に叫ばなければいけないようだ。黙っていたら、いつしか人は、私を馬扱いにしてしまった。(一行あき。)私は、いま、取りかえしのつかない事がらを書いている。