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かやのけんきゅう
蚊帳の研究
寺田 寅彦
「東京朝日新聞」1908(明治41)年8月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,433 字 · 3 页
電気の導体ですっかり包んだ中へは外からの電気作用が及ばぬというのは定則で、ある学者はこれを証するために自身で金網の中へはいり外から恐ろしい強い電気の火花をポンポン飛ばしたが中に居た先生には何の事もなかったという事である。しかるに麻布殊に湿気を帯びたのはかなりよい電導体で蚊帳はその網である。落雷はすなわち強い電気の火花だから理論上蚊帳は落雷の時の防衛になる事になりそうである、しかしどのくらいの程度まで有効かという事や、麻、木綿、絹等の比較などは専門の学者の研究を待たねば分らぬ。これもついでに御願いしたいものである。
吾々が今日の蚊帳に満足せぬまでも苦情を云わずに毎晩釣って寝ているのは、吾等の親もその親もこれを釣って寝たというだけの理由で、蚊帳といえばこんなものとあきらめているだけの事であろう。決して理想的の蚊帳ではない。玩具の絵具を検査し、猫とペストの関係を研究する世の中である。蚊帳の問題といってもただ閑人の寝言と思われては残念である。
(明治四十一年八月十八日『東京朝日新聞』)