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へび

蛇

森 鴎外

「中央公論 第二十六年第一号」1911(明治44)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,073 字 · 23 页

青空文庫

きゃっと云って倒れておしまいになりましたが、それから只今のようにおなりになりました。わたくし共も驚きまして、若い者の中に好く蛇などをいじるものがございますので、掴まえさせまして、野原へ棄てに遣りました。主人は新しい学問もいたしているものでございますから、なに、蛇というものは気圧なんぞを鋭敏に感ずるものだから、暴風雨の前なんぞには、馴れた棲家を出て、人家に這入り込むことがあるそうだ。仏壇にいたのは、全く偶然だと申しておりました。ところが、翌朝になって仏壇を見ますると、蛇はちゃんと帰っているのでございます。わたくしも此度は前より一層驚きました。なんでもこんな事を下々に聞かせてはならない。昨日奥さんの御病気になられたのでからが、御隠居様を疎々しくなされた罰だなんぞと囁き合っているらしい。こんな事を知ったら、なんというか分からないと存じまするから、それからはお仏間には人を入れないようにいたしております。実はこれにおられまする主人には、直ぐに相談いたしましたが、なに、あんなきたないものをいじらなくともの事だ、いつか逃げてしまうだろうと申して取り合いません。