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へび

蛇

森 鴎外

「中央公論 第二十六年第一号」1911(明治44)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,073 字 · 23 页

青空文庫

」

「いえ。どういたしまして。どうぞなんなりとも仰ゃって下さいますように。」腰はまた落ち着けられた。

「どうだい。ここいらでは夏でもそんなに遅くまで起きてはいないのだろうが、こうしてお前を引き留めて、話をしていても好いかい。」

「へえ。こちらなぞでは、宿屋と違いまして、割合いに早く休みまするが、わたくしはどうせ今夜も通夜をいたしまするのでございます。」

「通夜をするというのかね。それは近い頃不幸か何かあったのだね。」

「へえ。主人の母親が亡くなりましてから、明日で二七日になりますのでございます。」

「ふん。さっき聞けば病人があるそうだし、それに忌中では、さぞ宿なんぞ引き受けて、迷惑な事だろうね。実に気の毒な事をした。しかしもう御厄介になりついでだから為方がない。縁側は少し涼しいから、まあ、ちっとこちらへ来て話したら好いだろう。」

「難有うございます。いえ。県庁からお宿を仰附けられましたのは、この上もない名誉な事でございます。こういうところへお留め申しまして、さぞ御迷惑でございましょうが、当家ではこれもお上へ対しまして、報恩の一つでございまするから。」

爺いさんはこう云いながら、蚊遣の煙の断え断えになったのを見て、袋戸棚から蚊遣香を出して取り換えて、そのままそこに据わった。