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ほたる
蛍
織田 作之助
「文芸春秋」1944(昭和19)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,875 字 · 21 页
ところが悪いことは続くもので、その年の冬、椙が八年ぶりにひょっくり戻ってくるとお光を見るなり抱き寄せて、あ、この子や、この子や、ねえさんこの子はあての子どっせ、七年前に寺田屋の軒先へ捨子したのは今だからこそ白状するがあてどしたんえという椙の言葉に、登勢はおどろいてお光を引き寄せたが証拠はこの子の背中に……といわれるともう登勢は弱かった。お光は背中に伊助と同じくらいのほくろがあり、そこから二本大人のような毛が抜いても抜いても生え、嫁入りまえまで癒るかと登勢の心配はそれだったのだ。が、今はそんな心配どころかと顔を真蒼にしてきけば、五十吉のあとを追うて大阪へ下った椙は、やがて五十吉の子を生んだが、もうそのころは長町の貧乏長屋の家賃も払えなかった。いたし方なく五十吉は寄席で蝋燭の芯切りをし、椙はお茶子に雇われたが、足手まといはお光だ。寺田屋の前へ捨てればねえさんのことゆえ拾ってくれるだろうと思ってそうしたのだが、やっぱり育ててくれて、礼を言いますと頭を下げると、椙は、さアお母ちゃんといっしょに行きまひょ。お父ちゃんも今堅儀で、お光ちゃんの夢ばっかし見てはるえ。