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ばんじん
蛮人
山本 周五郎
「アサヒグラフ」1936(昭和11)年8月12日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,726 字 · 13 页
彼は黙々として働いた。食事休みで仲間が河岸へ出るときにも、仕事をしまったあとの雑談にも彼はけっしてみんなと一緒にならなかった、いつも独りで工場裏の葦の生えた沼地のへりに立っているか、または工場主の鶏舎の前にかがみこんで鶏の動作をつくねんと見戍っているらしかった。
彼は奇妙に生ものを愛した、もっともそれにはひとつの癖があって、釣って来た魚を沼地へ仕切りを作って活かしておくとか、よしきりを捕えて手製の籠の中で飼うとかするのである。猫とか犬とかいう放ち飼いのものには眼もくれないのだ。――そしてもっとも彼が愛していたのは鶏舎の中にいる痩せた老鶏で、小さな虫類や食い残りの飯粒などを持ってはよくその老鶏のところへでかけて行った。
「こここここほらよ、ここここほらよ」
彼は虫を老鶏だけに与えようと苦心しながら云う、「ここここほらよ、ここここ」
それから鶏舎の前にかがみ、両手で膝を抱えながらじっと相手のようすを見戍っている。――あるとき工場主が、その痩せた老鶏をつぶしてみんなに振舞をしようとしたことがあった、すると彼は工場主のところへ行って自分がそれを買取ろうと申し出た。