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たこのごときもの

蛸の如きもの

豊島 与志雄

「改造」1950(昭和25)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,085 字 · 21 页

青空文庫

京子よりも本気で怒っていた。洋裁店で、デザインもやり、ミシンも踏んでるのだが、客筋から届けられた南京豆を朋輩といっしょに食べてる時、光子があまり貪りすぎると皆から非難された。

「だって、痩せぎすの食い辛棒だなんて、ひどいことを言うんですもの。」

それはそうに違いない。肥った女よりも痩せた女の方が大食いであることは、昔からきまっている。そんなことより、たかが南京豆をかじりながら、どうして口喧嘩などになったか、その方が興味深い問題だが、それは御婦人のデリケートな神経に関することで、他からの窺※(「穴かんむり/兪」、第4水準2-83-17)をなかなか許さないのだ。

光子は涙ぐんでいた。口惜しいとか悲しいとかいう涙でなく、立腹の涙であることは、額に少し青筋を浮べてることで分る。

「癪にさわるから、南京豆の殼を、力いっぱい投げつけてやったし、室中に投げ散らしてやった。」

それでみると、殼のままの豆だったらしい。あれを、ばりばりむいて、ぼりぼりかじって、喧嘩してる、若い女たちの場面は、ちょっと挨拶に困るしろものだ。

腹を立てるより、腹の中にトンカツでもつめこんだ方がよかろうと、留七へ誘うと、その皮肉には全く無反応で、まだ南京豆の一件を怒りながら、巨大なトンカツを二つも食べてしまった。