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くも

蜘蛛

甲賀 三郎

「文学時代」1930(昭和5)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,314 字 · 22 页

青空文庫

というのは、眼ざめたBが註文どおり狼狽してくれればよいが、もし冷静に観察されると、まず第一に時計のとまっていることを看破せられるであろう。第二に窓をひらいたときに、それが一階でないということをさとられるおそれがある。そしてもっともおそるべきことはいったん看破られたが最後Bの陳述によってAは殺人未遂というのがれられない運命をになうにいたるであろう。

そこでおれは右の方法に一つの改良をほどこした。それはBにたいしてなんら強制力をもちいないことである。強制力をもちいさえしなければ、もしやり損なったさいもなんのとがめをうけずにすむわけである。

×月×日

おれは予定どおり大学をやめた。郊外の研究室の工事も着々すすんでいる。おれははじめ邸内の一部に研究室をたてようとおもった。そのほうがSをたびたび招いたりするのに都合がよいのであるが、いかに巧妙にいっても、人目のおおい市内では、おれの計略を見やぶられるおそれがあるから、不便な郊外をえらぶことにした。

×月×日

とうとう研究室ができた。研究室の秘密については、おれは都合のよい人間をしっていたので、絶対に他に洩れる心配はない。