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くも
蜘蛛
甲賀 三郎
「文学時代」1930(昭和5)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,314 字 · 22 页
半年とたたないうちに博士のこの奇妙な研究室には、世界各地の珍奇な蜘蛛がみられるようになったのである。
半年を経過するころには健忘症の世人は、もう博士がこの奇妙な研究室に閉じこもって、蜘蛛の研究をしていることなどは思い出してみようともしなかったが、ある夜辻川博士を訪ねてきた友人の大学教授潮見博士が、この研究室から墜落惨死した事件があって、一時また騒ぎだしたことがあった。そのころには物好きな人たちはわざわざこの研究室をみにきたものだった。むろん辻川博士は容易に他人を室内へ入れなかったので、そうした人たちは地上から、五間も高くそびえている円形の塔を下から仰ぎみて満足するより仕方なかったのだった。
しかし、世間の人はすぐその事も忘れてしまった。辻川博士はふたたび世間と隔離して蜘蛛の研究をはじめることができた。が、それはながくはつづかなかった。というのは博士は一月ばかり前に、ふとした不注意から熱帯産の毒蜘蛛に咬まれて、奇怪きわまるうわ言をしゃべりつづけながら瀕死の状態で病院にかつぎこまれ、一週間ばかり昏酔状態をつづけたのち、とうとう斃れてしまったのだった。