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みかん

蜜柑

佐左木 俊郎

「随筆」1927(昭和2)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,618 字 · 14 页

青空文庫

夜の冷気は犇々と身に迫って来た。お婆さんは、両足を縮めて、小さくなって見たが、やはりぞくぞくするばかりであった。だが、寝床の中で震えながらも三十分間ばかり我慢して見た。

併し、お婆さんは、いつまで経っても、もう寝床に親しむことが出来なかった。このまま凍り付いてしまいそうにさえ思われた。

「松! 松! 松やあ!」

お婆さんは、お美代を起こす気にはなれなかった。

「松やあ! お湯わかして呑ませで呉ろ。」

併し、誰も返事をしてくれるものは無かった。お婆さんはまた自分の寝小便を思い出した。眼だけが温かくなって来た。

しばらくすると、誰か囲炉裏の方へ起きて行く気配がした。お婆さんは耳を澄ました。足音は戸外へ出て行った。ごくりと唾を嚥み下して、お婆さんは出来るだけ小さく身を縮めた。

静寂な闇の中に、やがてハリハリと杉の枯れ葉の燃える音がした。続いて枯れ柴のパチパチと燃え上がる音がして来た。

「婆さん、今すぐわぐがらね。」

お美代が、自分の家で拵えた粗末な燭台を手にして這入って来た。お婆さんは、感謝の念だけで口がきけなかった。その灰色にまで垢染みた枕は、ぐっしょり濡れていた。