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みかん

蜜柑

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,307 字 · 25 页

青空文庫

そう聞いた源四郎は、すぐに支度をあらためて御前へ出た。頼宣は源四郎の顔を見ると、はやくも察したようすで、

「船出のことなれば諫言無用だぞ」と先手をうつように云った。

「泰平の世なればこそ、風待ちもできる、いざ合戦という場合にこれしきの風で船出を待てるか、紀伊の面目にかけても必ず渡海しなければならんぞ」

「それでこそ」と、そばから藪七郎左衛門が口を添えた。

「それでこそまことのおん大将、武を練ること泰平に狎れずの道でございましょう」

吹きつける強風が屋の棟をならし、燭台の火がはためいた。源四郎は七郎左衛門の顔を屹とねめつけたが、すぐに頼宣のほうへふり向きながら、

「船出をお止め申すのではございません」としずかな調子で云った。

「とかく士道が惰弱になりつつある折から、荒天を冒して御渡海をあそばすということは、世上への教訓にも相なり、またお国ぶりの名誉とも申すべきだと存じます。けっしてそれをお止め申しあげようとは存じません、……なれども」

源四郎はひどくまじめな口ぶりで、

「お上のお召し船は堅牢でもあり、水主もかこもえりぬきの者どもでございますから、これほどの風をのりきるに雑作はございませんが、家臣の乗りまするものは造りもよほどちがい、また水主もかこもお座船のように揃ってはおりませぬ、もし一艘でもくつがえった場合には多く