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みかん

蜜柑

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,307 字 · 25 页

青空文庫

これほどの主君の心が察しられず、じぶんひとりの狭い考えで無益に騒ぎまわるとは、なんというおろかなみぐるしいふるまいだったろう。

――申しわけがない。

そう思うとわれを忘れ、ひたと平伏しながら源四郎は面をおおって泣きだした。

――そのおろかなじぶんに、殿はいまひじょうの大役を命じて下さった、殿はじぶんをすこしも疎んじてはおられなかったのだ。

抑えようとしても抑えきれぬ嗚咽のために、身をふるわせて泣く源四郎のようすを、頼宣も青ずんだ顔でしばらく黙って見やっていた。……頼宣の胸には、かつて和歌山城の高石垣を築いたときにも、幕府からおなじような疑いをかけられたことが思いうかんだのである、それは僅に石垣の高さが規定を越えたというので、頼宣に謀叛のくわだてがあるという糺問だった。そのときは安藤直次が旅装するひまもなく江戸へかけつけ、

――紀伊家がもし謀叛をくわだてるなら大阪城へはいるであろう。辺陬の和歌山などで幕府の大軍と戦えるものではない。

そういう一言でみごとに老中の疑いを解いた。

「よいか源四郎」頼宣はようやく忿をしずめて云った。

「江戸へまいって、余の本心をしっかりと申し伝えるのだ、答弁のしようによっては和歌山城に草が生えるぞ」