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ちょうのえ

蝶の絵

久生 十蘭

「週刊朝日別冊 記録文学特集号」1949(昭和24)年9月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,644 字 · 49 页

青空文庫

山川はなにか考えていたが、

「上野へやるあいだ、私がお預りしましょうか。私に馴れているようですから」

「もう、そうねがえたら」

帰る間もなく、植木屋の若いものが、追いかけるように猿の檻を手車で曳きこんできた。

「これはどうも、さっそくだね」

飼箱から猿の子供を出して、二階の居間へ連れこむと、山川は女中にいって乾杏を持ってこさせた。

「オランウータンには、ずいぶん借りがあるんだから、罪ほろぼしのつもりで、当分、飼ってやろう」

猿の子供は窓框のうえに坐って、頭を掻いたり貧乏ゆすりをしたりしながら、皿の乾杏をもの欲しそうに見ていたが、そばに垂れているカーテンの紐を首に巻きつけると、踊るような恰好でヒョイヒョイと飛びあがった。

「気味の悪いやつだな。なんの真似をしているんだろう」

「津村のいたところは、石油が浸みだすというだけが取柄の暑苦しい蛮地で、大酒を飲んで昼寝でもするほか、時間のつぶしようがないもんだから、津村は癇癪をおこして剣をぬいて、女中を追いまわしたり、スープの皿を投げつけたり、まったくの気ちがい沙汰なんだ……こいつも、だんだん気が荒くなって、女中に飛びついたり、通るやつの首へ繩をかけてひき倒したり、手一杯にあばれていた。