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ちょうのえ
蝶の絵
久生 十蘭
「週刊朝日別冊 記録文学特集号」1949(昭和24)年9月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,644 字 · 49 页
父兄はまた父兄で、小間使いや子供のいる前で、こんどの院長は、成上りの小華族だとか、旧華族だが、男爵からあがったヤット子爵だなどと放言して、子弟を煽りたてるようなことをする。戦前の女子部の生徒は、たいてい陰険で嫉妬深く、ようすぶってすましているが、ひどく早熟で、廊下などで、通りすがりに若い教師にすごいタッチをしたりする。
山川は、五歳ぐらいまで、蚕のようにすき透り、少年時代は、色の褪せたような白子面をしていたが、大学を出るころになると、ナルシス型のなよなよした優男になった。山川が女子部の英語の先生にきまると、女生徒たちは、花世という女のような名に反感をもち、さっそく、みなで苛めにかかったが、極端に内気で、弱々しく、長い睫毛が、しっとりと眼に影をつけているといった感傷的な風姿が、同情と保護感情によびかけ、苛めるどころか、おかわいそうにといって、むやみに劬りだした。
山川の交際ぎらいと、律儀さと、人間にたいする用心深さは、家庭の気質の反映もあるが、じつは、争い事が起こるのが、なにより恐ろしいので、女生徒たちの過度の発揚から生じる葛藤ほど、迷惑なものはなかった。