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ちょうのえ

蝶の絵

久生 十蘭

「週刊朝日別冊 記録文学特集号」1949(昭和24)年9月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,644 字 · 49 页

青空文庫

背の膨らみのところで、血の紅はひときわ濃く、ポッテリとした鱗粉の厚みを感じさせながら、えもいえぬニュアンスで下翅のほうへ暈け、ギザギザになった縁辺は、この世で想像しうる、もっとも精緻なレース織の唐草の編目を見せて、夢幻のようにブラン・ド・ザンクの背色のなかへ溶けこんでいる。

最後に山川がくれた手紙は、長々しい厄介千万なものだったが、こういう種類の告白が、感動に溺れることなく、いかにも坦懐に語られ、敬虔な態度を、最後まで堅固に持ちつづけることができたという例はすくない。嫌な奴といわれている山川だったが、性情の奥底には、あふれるような深いたましいがひそんでいたのではなかったかという、戸惑いのようなものを感じさせた。

姻戚政策で、学界、財界に閨閥の一大フジョンを形成した、米作、秦、藤池などの名家の系列に、山川家もある。

山川の家では、女子を社会事業家と教育家に嫁って、姻戚関係をその方面にもつ方法をとった。姻戚閥の相互扶助によって、教育界に勢力を扶植することが、山川家の最高命令で、生まれてくる子供はもちろん、嫁入先の母方の再従姉妹までが、政策を推進する、必要欠くべからざる要員なのであった。